キルト作品展を開催し、その後皆さんは、新しい作品の制作に向けた準備を行ったり、生徒さまからの新しいオーダーを受けたりする際に、必ず問題となる“色”について、悩んでしまうという方たくさんいらっしゃると思います。ここでは作品制作の際の“配色”のやりかたやきっかけなどを掲載させていただいております。クオリティの高い作品を作り上げていただくヒントとして、基本的な色の構造や考え方などを参考にしていただき、美しい作品を仕上げていただく手助けになればと考えております。
配色を考える
ハワイアンキルト作品の配色を考えるとき、きっかけとなる要素は以下のようなものがあります。各ケースを見て、配色のときに気にすべき項目を見てみたいと思います。
1.作ろうとするモチーフそのものの色
2.ハワイで決められた色(島の色、ハワイ王朝を表すロイヤルカラー、黒は使わないなど)
3.作り手の好きな色、人の作品や、作品集を見ていいと思った色
4.日本や他の国で決められている約束事の色
5.言葉からイメージする色
1.作ろうとするモチーフそのものの色を使ってみる
各モチーフそのものの色は、皆さんそれぞれご存じのことと思います。ハワイアンキルトにおいては特に意図が無い場合には、なるべくモチーフの色をそのまま表現することが好ましいことです。ですが、これを十分理解した上で、わざと他の色を使う場合には、常に自分の中で“なぜその色にしたのか?”という考えを持つことが大切です。というのは、多くの人の目は、とても保守的で、各自が持っているモチーフの色のイメージと違った場合“なぜだろう?”と強く思ってしまいがちだからです。物を作るときに、当たり前のことをするだけでも人の心を打つことができます。
2.ハワイで決められた色の決まりに従ってみる
(島の色、ハワイ王朝を表すロイヤルカラー、黒は使わないなど)
アイランドレイ、ロイヤルカラー、ハワイ王朝にまつわるエピソード、花の色、などご自分でリストを作って色を決めるときに互いに話し合うのも楽しいかも知れません。以下に色を考えるときのきっかけとして参考になると思われる要素を表にしてみました。
テーマ | 色 | 情報 |
ハワイの州木・州花 | 黄・他 | 州の木 は、ククイ(kukui)、州花は黄色のハイビスカス(Hibiscus Brackenridgei) |
カウアイ島 | Purple & Lilac |
島の花 モキハナ(Mokihana) グリーンベリー 【カウアイ島を歌った歌】 Hanalei Moon(ハナレイ・ムーン)/Nani Kaua’i(ナニ・カウアイ)/Mokihana Lullaby(モキハナ・ララバイ)/Nohili E(ノヒリ・エ)/Pili Aloha(ピリ・アロハ) |
オアフ島 | Gold & Yellow |
島の花 イリマ(ilima) グリーンベリー 【【オアフ島を歌った歌】 Makee Ailana(マキイ・アイラナ)/Haleiwa Hula(ハレイワ・フラ)/Kaimuki Hula(カイムキ・フラ)/Pua Ahihi(プア・アヒヒ)/Waipio(ワイピオ)/He Aloha No Honolulu(ヘ・アロハ・ノ・オ・ホノルル) |
ラナイ島 | Orange & Yellow |
島の花 カウナオア(Kaunaoa) 黄色とオレンジのエアープラント |
モロカイ島 | Dark Green & Light Green |
島の花 白いククイの花(kukui) 【モロカイ島を歌った歌】 Molokai Sweet Home(モロカイ・スイートホーム)/Wahine Ilikea(ワヒネ・イリケア)/Ka Paniolo Nui O Molokai(カ・パニオロ・ヌイ・オ・モロカイ) |
マウイ島 | Dark Pink & Light Pink |
島の花 ロケラニ(Lokelani) ピンクの小さなバラ 【マウイ島を歌った歌】 Kipahulu(キパフル)、’Ahulili(アフリリ)/Ku’u Home O Maui(クウ・ホメ・オ・マウイ)/Lei Loke Lani(レイ・ロケラニ)/Ke ‘ala O Ka Rose(ケ・アラ・オ・カ・ローゼ)/Kauanoeanuhea(カウアノエアヌヘア) |
ニイハウ島 | Dark Blue & Light Blue |
島の花:ププ(pupu) シェルレイに使われる美しい貝の島です。 |
カホラヴェ島 | アクア+グレー | 島の花 ヒナヒナ(Hinahina) |
ハワイ島 | 赤+黄 | 島の花 赤いレフア・オヒア(Lehua Ohia) 【ハワイ島を歌った歌】 Akaka Falls(アカカ・フォールズ)/Poliahu(ポリアフ)/kimohula(キモフラ)/Ka Ulu Wehi O Ke Kai(カ ウルヴェヒ オ ケ カイ) |
山の色 | 白 | 山の色=ハワイ島のマウナケアは冬に雪が積もり山頂付近が白くなることから、”白い山”という意味で Mauna(山)+ Kea(白)となっています。 |
ロイヤルカラー | 赤+黄 赤+紫 虹の色 |
カヒリ、ウリウリ、オハイアリイなど、ハワイ王朝の色を想像させるアイテム |
3.自分の好きな色や、人の作品を見ていいと思った色を使う
自分の好きな組み合わせで作りたいと言う場合が一番多いかも知れません。その色が好きな理由も、各自それぞれですが、注意しなければいけないのは、モチーフの持つ色と全く違った場合の指定をされるときです、このときも、先に述べたように、教室で配ったプリントや、図鑑、写真などを使って、実際の色と違うことを作り手に十分理解してもらうことが大切です。
ハワイの伝統文化の中にも、トレンド(流行)があります。フラで、昔青色の衣裳はタブーとされていましたが、ハワイで、若いクムフラの中には、タブーとわかった上で青の衣裳を採用する人も出て来ています。また、日本のフラ教室では、メリーモナーク(ハワイで毎年4月に開催されるコンペティション)でハワイのダンサーが着用した色や素材がそのまま日本でのトレンドになるなど、ハワイアンキルト以外の動向をチェックすることも大切です。
4.日本や他の国で決められている約束事の色
桜の花を、紫や黄色で描く人は少ないし、日本の国旗の色を間違えて描く人も居ないように、我が国でもいろいろな色に対するイメージというものを、それぞれが持っています。これと同じように、ハワイにもその他の国にも約束事の色が存在します。これを知るために資料を集めたり、本を読んだり、ハワイに行ってみたりすることは言うまでもありません。また、日本の伝統色などは、鮮やかな色がほとんどありません。これは植物や鉱物などを染料に使っているためです。また、関東と関西では、気圧や気候の関係で、綺麗に見える色が違うと言われています。関東では赤、関西では緑色の車が売れるという話を聞いたことがあります。(そいうえば、名古屋のホットもっとの看板は緑色でした。)旅行に行った際に、その環境でどんな色が綺麗に見えるのか?と自分で記憶しておくことも大切です。スイスの赤い旗、写真を見てきれいだな、と思ったことはありませんか?
5.言葉からイメージする色
言葉からイメージできる色は、意外にも日本では標準化されています。今回の講習でも皆さんに学んでいただきたい大きな項目のひとつです。色を標準化することの理由は、各自の育った地域や環境によって方言があるように、言葉から思い浮かべる色がそれぞれ違うためで、大量生産される工業製品や、アパレル、化粧品などの色を決める際に、商品開発に関わる人たちの共通言語として用いられています。教材としてお渡しした“配色イメージブック”は、財団法人日本色彩研究所が定めた要素を基本として、色を使った仕事をしている人や、商品開発する人たちの手引き書として用いられています。日本色研では、様々な色に関するスケールや書籍、色紙などを用意しているので、各自調べてみてください。
色を理解する上で、図のようなスケールに言葉をあてはめて分類を行っています。こうして自分が使おうとする色がどんな言葉のイメージを持っているのか。また、言葉を色で表すとどういう色になるのか。このスケールを使って配色のきっかけを作ります。
ハワイアンキルトで使うと好ましいのは、A・Cの範囲で、ここから色をセレクトすると“らしい”作品ができあがるはずです。最近の教室の色の傾向としてはBのものが増えて来ています。これは、実際に使うことを考えると、仕方の無いことなのかも知れません。皆さんの中では、使う作品と展示する作品と区別して制作されることなども考えるべきなのかも知れません。
お配りした本をよく見、どんな色がどんな言葉を表しているのか。また、これを使いながら街を歩くときにも見た色に自分で言葉を思い浮かべてみたりして、日々訓練してゆくことも大切です。
これ以外にも配色に関するやりかたはいろいろありますが、基本と言われるカラーイメージスケールをまず使いこなすことが重要です。
6.色について
色彩学上の色の三原色は赤・青・黄です。カラーモードについては、テレビやデジタルカメラなどでおなじみのRGB(Red Green Blue・最近はアクオスなどでRGBYのカラーモニターなどが出ています、これはRed Green Blue Yellow)。このほかにフルカラー印刷で使うカラーモードCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)などがあります。CMYKはインクジェットのプリンターでも最近ではおなじみになっています。
CMYKよりもRGBのほうが、表現できる色の範囲が広く、これは光を使った色の表示をさせるためで、生地やインクの方が、再現できる範囲は顔料や染料の関係で狭くなります。
また、色には、明度(明るさ)彩度(あざやかさ)色相(何色に属しているか)の違いがそれぞれあります。この明度・彩度・色相は、それぞれがバラバラに存在するのではなく、1つの色が持つ数値でもあります。この明度、彩度、色相を正しく理解すれば、色を上手に配色することができるようになります。
そもそも色が見えるということは、光が当たることで判別できるようになり、光が無くなると全て真っ黒になってしまうことは、毎日昼・夜を暮らしていて日々体験しています。
また、カラーモードの中で、三原色やCMYKは全ての色を混ぜ合わせると“黒”になり、何も混ぜないと当然白になります。三原色とCMYKの最大値は100%です。
RGB(あるいはRGBY)は、最大値が255で、RGBそれぞれを最大値にすると“白”になり、何も混ぜないと“黒”になります。
白や黒やグレーは、一般的に色味の無いグループ“無彩色”として存在し、無彩色には明度はありますが“彩度・色相”はありません。光のない世界では、濃淡のみが存在するという考え方に基づいたものです。無彩色はグレースケールと呼ばれて、他の色に対しては明るさを測る尺度の基になります。
赤・青・黄は色の三原色です。赤+黄=オレンジ、黄+青=緑、青+赤=紫で、三原色の間にある色として赤→オレンジ→黄→緑→青→紫→赤に戻るサークルを作りあげ、これをヒューサークルと言います。超極論ですが、大別して無限にあると言われている色はだいたい6つに大きく分類されてしまいます。
この基本6色の色の関係は左図のようになります。各色の180°反対にある色同志を補色関係と言います。具体的には赤と緑、オレンジと青、黄と紫が補色関係同志です。補色とは、互いを補いあう関係で、反対色と言われ、互いを補って色彩学上の“黒”を作り上げる関係のことを指します。
紫と黄を境にして暖色系と寒色系に分かれ、紫と黄は、その境界に存在するため、安定色(不安定色)と言われています。この2色は、暖色系にも寒色系にも使うことができます。
7.アンバーゾーン
大きく分けて色は6色に分けられると言いましたが、皆さんがよく知っている色の中に、ベージュやブラウンなどがあります。これはいったいどこに入る色なのでしょうか?これをどんな風に色として捉えたらいいのでしょうか?
さきほどご説明した、補色関係を今一度思い出してください。
←注目
これらを混ぜると“黒”になります。この黒と赤の間に、茶色(濁色)のゾーンが出来上がります。これをアンバーゾーンと言います。アンバーゾーンの中にある色を明るくする(白を混ぜて明度を上げて行く)と、明るい茶色であるベージュやアイボリーなどを見つけることができます。
このアンバーゾーンは、赤+緑で構成される茶色(濁色)、オレンジ+青で構成される茶色(濁色)、黄+紫で構成さる茶色(濁色)と大きく分けて3種類あることになります。
茶色(濁色・アンバーカラー)を基本に配色する場合、調和の取れた配色にしたい場合には、自分が使おうとする茶色が、何色で構成されているかをよく見て、赤+緑でできた茶色なら、合わせる色は、赤もしくは緑を選び、オレンジ+青でできた茶色なら、合わせる色は、オレンジもしくは青に、黄+紫でできた茶色なら、合わせる色は、黄もしくは紫に、というように色を選びます。
反対に、調和を必要としない配色をしようと考えるのなら、選ぼうとしている茶色が構成されている色とは無関係な色を選ぶことをすればいいのです。
これは、人間の肌にも同じことが言えます。日本人は黄色人種と言われていますが、人の肌の色もそれぞれ微妙に違います。赤が似合う人の肌は、赤+緑でできた茶ーベージュでできた肌色の場合が多いですし、赤が似合う人は、だいたい緑も似合うはずなのです。ファウンデーションや口紅、マニキュア(ネイル)の色を買うときに、決して自分に似合わない色があることを、皆さんは気付いているのではないでしょうか?似合わない色が思い浮かぶのであれば、その色がご自分の肌の色に含まれていないと思ってほぼ間違いありません。
また、インテリアなどにもこの情報を生かすことができます。家具などのコーディネイトをする場合にも、基本となる家具や室内の色を見る能力があれば、カラーをコーディネイトすることも得意になるかも知れません。色は皆さんの暮らしの中にたくさんあるのです。
8.デザインと色
毎日色を扱っているわたしたちは、ともすると情報に流されてしまいそうになります。ですが、好みの色だけをこねくり回して居るだけではプロのお仕事はできません。色の持つ意味や役割をよく考えた上で、あてはまるケースを探してそこを展開していくようにしています。たとえば、正月は紅白や金銀、バレンタインならピンク&ハート、クリスマスなら赤緑、ハロウィンならオレンジ、茶、黒など、一般的な色合いを理解した上で、少し気の利いた要素をプラスするようにしています。大きく色を変える場合には、色を変える理由を自分の中でみつけ、決めたルールに従って構成を考えて行きます。日々、暮らしの中での色をよく見て、理解することがスタートにあたって大切なことは言うまでもありません。
また、日本人が持つ色のイメージをよく知ることも重要です。
今年の風水色は、「黄色」「ベージュ」「ラベンダー」だそうです